2018年5月に2日間の日程で鹿児島市で行われた第34回腎移植・血管外科研究会にて、腎移植に関わるテーマで興味深い講演がございましたのでレポート致します。発表内容は聴講した内容を記載しておりますので、発表者の趣旨と異なる可能性があります。毎度ながらご了承ください。
研究会初日、「腎移植3000例のための方法論」と題してシンポジウム2が開催されました。
後藤憲彦先生(名古屋第二赤十字病院)と荒木元朗先生(岡山大学)の司会で、改正臓器移植法施行後も増加の兆しが見えない腎移植の現状を踏まえ、年間移植数を倍増させる具体策について検討されました。
「腎移植3000例のための方法論」
座長:後藤憲彦先生(名古屋第二赤十字病院)、荒木元朗先生(岡山大学)
「TPMは臓器提供の切り札になりうるか?」
吉川美喜子先生(神戸大学)
神戸大学の腎臓内科医、吉川先生はTPM(Transplant Procurement Management)と呼ばれる臓器提供に関わる医療従事者の教育プログラムについて、諸外国の仕組みと日本の問題点を論じました。
■日本の臓器提供を適正に行うために必要なこと
スペインや米国は、公的資源や膨大な人員を臓器提供システムの構築と運用に投じており、病院の内外に臓器提供がうまく進むための組織を構築しています。吉川先生はスペインの臓器提供システムの視察を通じ、指導的立場であったJose Ramon Munezの言葉を冒頭に紹介されました。それによると、日本の臓器移植を適正に行うためには以下の3つの目標が必要だということです。
・欧米のようなシステムを日本に合わせて構築すること
・スタッフや社会に継続的なトレーニングを行なっていくこと
・このシステムを国民が信頼すること
日本の臓器移植においては、臓器提供者が現れる可能性が高い病院の内部と、臓器提供を移植につなげる病院間のシステムが不足しているだけでなく、社会全体が臓器提供システムを信頼するに至っていないことが問題です。移植医は移植医療の必要性をもっと国民に説明していく必要があるということです。
■TPM(Transplant Procurement Management)職員の役割とは
スペインや米国のTPM職員は、以下のような役割を担っています。
・臓器提供の可能性がある患者さんを提供病院内で早期に見つける
・患者さんが、脳死の状態であるかどうかを確認する
・患者さんが、医学的に臓器提供が可能な状態なのかを判断する
・患者さんのご家族にきちんと納得できる形で、臓器提供の権利と選択の自由があることを説明する
・移植までのプロセスをサポートすることにより、ドナーの主治医や病院の負担を軽減する
・最終的に摘出した臓器を移植施設へ搬送する
日本では、これらの業務をすべて、現場の主治医や移植医、数少ないJOT(日本臓器移植ネットワーク)の職員が担当しており、最初から人員・システム不足のまま臓器提供が動くため、とても欧米並みの移植数の実現は難しいということになります。
スペインや米国のこういったTPM関連職員の全体像を示す写真がスライドで提示されていましたが、日本で言えば県内の数個の市町村にまたがる範囲に、全病院を統括する職員が数百人活動していました。おそらく日本ではこれが1~2名に過ぎないという計算になります。
会場からは、東邦大学名誉教授の相川先生が、JOTのシステムの問題点を指摘し、現在の日本のシステムでは、家族対応や提供の説明を行う人員が少なすぎるため、今後その業務を専門に行う院内コーディネーターを各病院内に行政主導で設置していくことが必要であると発言しておられました。
次回、腎移植3000例のための方法論<中編>
「何故、奄美大島で日本初の脳死下臓器提供が可能になったか?」
「アメリカにおける腎移植・臓器提供の実際」
をお届けします。